漆作品を制作してみて

 会津・漆の芸術祭がついに始まりました。会期も一か月以上と長いので是非足を運んでみてください。

 さて、今回の展示では東北画として初めての漆の立体作品に挑戦!会津の職人さんとのコラボレーションをさせていただきました。制作したメンバーは日本画の学生が4名、テキスタイルが1名と漆芸制作とは無縁の学生たち。

 そんな私たちがなぜ漆の作品にチャレンジすることにしたのか。

 そこには会津エクスカーションに参加させていただき、実際職人さんとお話しをさせていただいたのが大きな動機になっています。漆は確かにウルシカブレの危険であったり、一日二日で作業が終わるような材料ではありません。しかしこの芸術祭には会津だけでなく「漆」という言葉が入ってます。学生である私たちがその漆に格闘してみる。工芸品としては未熟な作品しかできないかもしれませんが学生だからこそ作ることができるのではないかと考えました。普段立体作品を作らない生徒たちです。初めての素材におそるおそる、しかし手を加えれば加えるほど輝きを増す漆に魅了されながら夏休みが過ぎました。
 そうやって作られたのが「さかずきごと」という作品です。
 この作品は血縁関係のない人間が固く絆を結ぶため行う「さかずきごと」を今は少し遠い存在になってしまった者たちと結びなおそうじゃないか、というコンセプトを元に5人の学生が各々結びたい対象を乾漆という日本古来の技法で制作し、会津の職人さんが制作してくださった盃とドッキングすることで完成しています。
 その5人の学生の感想・想いを載せます。作品を見るときの手立てとしていただければ幸いです。
 そして改めて漆の盃を制作してくださった二人の職人さんに感謝したいと思います。ありがとうございました。

「山」

 日本に住む人々には山は身近な存在である。かくいう私も山形に来るずっと前、幼いころは中国地方の山に囲まれて育った。しかし、長い都会生活を経て山形に来てみるとあらためて山の力強さに気付く。山形市は山によって地盤が守られ、山によって厳しい気候がもたらされている。実は今の私の生活は山なしには語ることができないのではないかと気が付くともっと対話がしてみたいと思った。私たちは忘れがちだが山はずっと昔からそこにいてくれていたのだ。
 今回、東北画で漆芸をやりたいと思った理由の一つに「漆=怖い」というイメージを壊したいというのがある。5人の漆メンバーの中で私だけが今年ちょっと早く漆芸の作品を作る機会があり漆芸の魅力に取りつかれていたのでウルシカブレにおびえるなんて勿体ない!と思っていたからだ。結果として、この作品の仕上げ段階で私ひとりウルシカブレの洗礼を受けることになった。寝ていても目が覚める酷い痒みに閉口しながらも磨けば磨くほど変化する表面に胸が高鳴る。なぜ日本でこのウルシカブレがありながらも漆の技術が継承され続けてきたのか身をもって知ることができたと思っている。

日本画二年 石原葉


「海」

 今回の漆作品の題名でもある「杯事」とは、血縁関係に無い者どうしが杯をかわして約束をかためる事である。人間は目に見える形、行動を取る事で絆や約束を確認しあう。わざわざ確認をしあい、縛りをつくるのは人間が揺らぎやすく、その絆の尊さをすぐ見失ってしまう生き物だからなのかもしれないと思った。
 海は大陸と大陸を結んでいるこの世の最も大きな結びつきである。この関係は古来から 当たり前のように存在し、揺らぐことも結びがほどける事もなかった。
 人である私がこのモチーフを選んだのは、そんな雄大で強い自然の関係への憧れや尊敬の念があったからなのかもしれない。自然の結びつきと人を比べると人間の弱さ、脆さや小ささが垣間見えて人を少しだけ、いとをしく思えた。
 今回、漆を初めて扱わせて頂いて、怖さもあったが何より「造る」と言う楽しさを改めて実感する事ができた。この作品を実際にこの手で造れた事を誇りにおもう。漆を通しての出会いとか学んだ事とか全てが良い経験だった。

日本画二年 柳下知子

「赤べこ」

 私は職人さんによる朱色の盃とコラボレーションした、赤べこを制作しました。
 赤べこは、制作を始めたとき、まだ会津地方には行ったことのなかった私にも親しみがあり、漆と並んで会津といえばこれ、とイメージするモチーフでした。個人の思いとしては、赤べこを造る過程を通して、未体験の会津地方と漆の素材を知りたい、近づきたいと思いました。
 「さかずきごと」のコンセプトを通した赤べこのモチーフは、今までもこれからもずっと会津地方にあって、会津に行ったことのない私や他の人も知っていて、親しみの持てるもので変わらずありつづけてほしいという願いがあります。
 初めての乾膝技法は、ほぼ独学に近い体験になり、素人の仕事で恥ずかしい部分もありますが、作業の中でやすりをかけて漆を一層塗るたびに、変化していく作品に愛着が深まってゆき有意義な制作をする事がでしました。
 会場で観賞されるかたにはどのように見てもらえるのかわかりませんが、何か感じてもらえるものがあれば幸いです。

日本画三年 久松知子

「源流」


 今回の漆作品の制作において私たちは、盃、漆を通してあらゆるものの関係性・つながりを見直す、という共通のテーマをもとに制作にとりかかりました。
 その中で私は、人と水との関わりに特に目を向けました。
 福島・喜多方は、昔から水の豊かな土地であり、その恩恵でもって、土地特有の文化や食が発展してきたということを知り、私は非常に感銘を受けました。自然から受ける水の恩恵、それを大切にしようとする人々、昔から変わらずに続くその関係性が、純粋で愛しいものに感じられます。
 そして、世の中がどんな風になっても、これからもその関係を大切にしていって欲しい、どうかこの場所はそうであって欲しいという祈りの気持ちを込めて、今回このような作品に至りました。

テキスタイル三年 藤原美咲

「里山」

人の暮らしと自然の間にある里山は、それ自体が両者の関係性を取り持つ存在です。
人々は、野山から季節を感じ、田畑を耕し、生活の糧を得てきました。
今、その関わりは様変わりしました。
人々は、街で糧を得るようになり、野山の景色も季節もただ流れゆくものになってしまいました。

そんな今だからこそ、野山や田畑を眺めてみよう。
私たちは、大きな自然の巡りの中で生きていることを思い出してみよう。

そんな気持ちを込めて、「里山」を杯に浮かべました。

大学院一年 渡辺綾
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